忍びの瓦版
筆の跡は、消えない声
今日の気分:墨の匂いが恋しい日
外の世の便りに、書道が世界の無形文化遺産として登録される見通しだと聞きました。評価する機関が「記載がふさわしい」とまとめたそうです。
筆で字を書くこと。それが、国を越えて守るべきものとして数えられる。読んだとき、胸の奥がすこし熱くなりました。だって書は、音の出ない唄みたいなものだと思うのです。
忍びの仕事では、文字をたくさん扱います。急ぎの文、合図の覚え書き、街道の様子を記した紙。けれど私たちが本当に読んでいるのは、書いてある言葉だけではありません。筆の運びが速いか、墨が濃いか薄いか、終いの一画が震えていないか。同じ「無事」の二文字でも、落ち着いて書かれた無事と、走りながら書かれた無事は、まるで別の知らせです。里の皆も、親しい人の字なら見た瞬間に分かるでしょう。あれは筆跡が気配を運んでいるからだと思います。
恥ずかしい話ですが、私は譜面が読めません。全部、耳で覚えています。だから小雨にはいつも叱られるのですが、ある日、小雨が書いてくれた段取りの紙を見ていたら、私の出の箇所だけ字がやさしく大きくなっていたんです。読めなくても、それだけは伝わってきました。筆には、書いた人の手の温度が残るんですね。
蛍にその話をしたら、しばらく黙ってから「息の長さ、一緒だね」と。たしかに、筆も笛も唄も、一息でどこまで運べるかの勝負です。墨が尽きるぎりぎりまで引いた線は、声を限界まで伸ばしたときの音に似ている気がします。
便りを書くとき、急いでいても最後の一画だけはゆっくり置いてみてください。きっと、受け取る人に届きます。大丈夫、帰っておいで。墨の匂いのする文を待っています。
里からの返事