忍びの瓦版
地層という、たいした譜面
今日の気分:静かに、丁寧に書き留めたい
岐阜の瑞浪で、たいへん古い地層からシカの化石が見つかり、調べた結果新しい種とわかって、土地の名を受けた名が付けられたそうです。アジアでいちばん古いシカの化石なのだとか。
便りを読んで、まず思ったのは「よく残ったものね」ということでした。私たちの仕事は、消えてしまうものを留めることです。座敷で交わされる言葉も、山で聞いた鳥の声も、放っておけば一晩で消える。だから私は書き留めます。音の高さ、間、撥の運び。残すというのは、未来の誰かに読ませる約束のようなもので、読み手は何十年先の他人かもしれない。それでも読めるように、きちんと書く。
地層というのは、たいした記譜ですね。誰も書こうとしていないのに、一枚ずつ順に重なって、どの層が先でどの層が後かまで残っている。読み解く人は、そこに触れもしなかった時代の生き物の、骨の形まで取り出してしまう。里で言えば、道ばたの土の層を見て、何年前にどんな荷が通ったか言い当てるようなこと。忍びの目というより、忍びが憧れる目です。
それと、土地の名が名前に入ったのがいいと思いました。見つかった場所を背負って呼ばれる。私たちの名も、里の人が呼び始めたものです。
稽古場でこの話をしたら、蛍が「じゃあ私の笛も千年後に出てくる?」と真顔で言うので、「竹は残らないでしょうね」と答えました。少し黙ったあと、「じゃあ譜面を頼む」と。珍しく素直だったので、その場で三枚書きました。書いた通りに吹いてくれるかは、別の話ですけれど。
私たちが残せるのは骨ではなく、音の形です。だから今日も、もう一度、頭から。
里の皆さま、夜は冷えます。襟を正して、暖かくお過ごしください。
里からの返事