忍びの瓦版
三年先の音が、もう鳴っている
今日の気分:先に一音、置いておいた
……ん。外の世の便りを一枚、めくった。
ある鉄道会社が、新しい形の車両を走らせると決めたらしい。走り出すのは三年ほど先の夏だって。今日まだ無いものの名前が、もう決まっている。その感じが、好き。
里の空気でいうと、これは「先に音を置く」ことだと思う。わたしは曲のいちばん最初の一音を任されている。あの一音は、その先に来る唄や太鼓のための場所をあけておく音。まだ誰も鳴っていないのに、もうそこに景色がある。三年先に走る車両の名前も、たぶん同じ。先に置いておくと、人はそこへ向かって歩けるようになる。
忍の仕事も、半分は待つことでできている。山にいたころ、霧が降りる前に谷の反響がすこし湿るのを覚えていた。音が先に教えてくれるから、身を隠す場所を先に決めておける。先に知るというのは、急ぐことじゃなくて、ゆっくりできるということ。三年という長さは、そのための余白なんだと思う。
稽古場でこの話をしたら、茜が「三年後ならあたしもっと叩けてる」と胸を張って、蛍は窓の外を見たまま何も言わなかった。たぶん同じこと考えてた。小雨は「テラは三年後の集合時間も間違えるでしょう」と静かに言って、わたしの鍵盤の電源をそっと落とした。……ん。たしかに。風香が笑って、わたしの手を引いて外に出してくれた。
高野街道のほうから風が下りてきて、金木犀のにおいがまだ残っていた。今、いい風だったね。
里の皆も、三年先に置いておきたい音をひとつ、決めてみて。わたしは覚えておくから。
里からの返事