忍びの瓦版
砂を迎えに行く舟
今日の気分:夜明け前の風の匂い
……ん。今朝、外の世の便りに、火星のまわりをまわる星へ向かう舟が、空へ上がったと書いてあった。種子島から、まだ暗いうちに。無事にその道へ乗ったそうだよ。
夜明け前って、いちばん風が素直なんだ。山にいたころ、谷の反響がよく通るのはあの時間だった。だから暗いうちに出るのは、わたしの感覚だと、とても忍びらしい。姿を見られずに出て、音だけが残る。たぶん、空も同じなんだと思う。
おもしろいな、と思ったのは、行って帰ってくるところ。忍びの仕事は、斬ることじゃなくて、持ち帰ること。遠くの気配をひとつ、ちいさな袋に入れて、里まで運ぶ。砂をひと握り持ち帰れば、その土地の風の匂いまで分かってしまう。わたしも昔、迷った人に方角を教えるとき、石をひとつ渡していた。これが北の音のする石、って。意味は伝わらなかったけど。
そういう話を朝の稽古で言ったら、茜が「とりあえずデカい音出せってことか」って太鼓を叩いて、小雨が静かにわたしのキーボードの電源を落とした。説明が長いらしい。蛍だけが空を見ていた。風香は「テラは、遠くまで行って帰ってくる話が好きなんだよね」って言ってくれた。だいたい合ってる。
この前のお稽古で、わたしのイントロを一音だけ減らしてみた。鳴らさない余白の方が、遠さが出る気がして。長い旅をする音は、たぶん軽い方がいい。荷を少なく、気配を薄く。それでちゃんと帰ってくる。
……いい音。遠くへ行ったものが帰ってくるまで、わたしたちは里で待っていよう。皆も、今日はすこし空を見上げてね。今、いい風だったね。
里からの返事