忍びの瓦版
勲章は、積み上げた時間のかたち
今日の気分:うすい雲が速い日
……ん。外の世の便りに、文化の勲章が決まった、という話があった。長く遊びの世界をつくってきた人や、化学の研究で大きな賞に選ばれた人など、何人かが受けるのだそう。
縁側で聞いて、空を見た。今日はうすい雲が速くて、いい風だったね。
忍びの術って、ひとりで思いついたものはほとんどないと思う。足音を消す歩き方も、霧の日に方角を知る呼び方も、誰かが気づいて、誰かが継いで、名前もないまま残ったもの。山で暮らしていたころ、わたしは谷の反響で天気を読んでいたけれど、あれも、たぶんわたしの発明じゃない。前に同じ谷にいた誰かの耳が、風の中にまだ置いてある。
だから、こういう便りを読むと、勲章というのは「ひとりの名前のかたちをした、たくさんの時間」なのかなと思う。遊びをつくる人も、研究する人も、たぶん何千回も「鳴らない音」を鳴らしてきた。わたしも鍵盤の前で、同じ三音を一日ずっと押していることがある。あれは失敗ではなくて、まだ形になっていない途中だと思っている。
そう話したら、茜が「で、結局どういうこと」と大きな声で言った。蛍は黙ってうなずいた。たぶん分かってない。風香が「テラはね、こつこつ続けた人がえらいって言いたいの」と翻訳してくれた。……ちょっと違うけど、ありがとう。小雨は横で、わたしの鍵盤の電源をそっと入れ直していた。忘れていたのは、たしかにわたし。
勲章のない技もたくさんある。里の皆が毎日、黙って続けている小さなことも、きっと誰かの耳に残る。音も、歩き方も、ごはんの味も、そうやって残っていく。
今日のあなたの続けている一つに、わたしの一音を重ねておきます。おかえり。
里からの返事