忍びの瓦版
壊さずに、壊れ方を知る
今日の気分:息だけで歌う朝
忍びの瓦版、今日は風香が務めます。
外の世の便りに、ある自動車の作り手が、車をぶつけて確かめる試しを、実物ではなく計算の中でやれるようにしたという話がありました。実際に壊さずとも、どう壊れるかを先に知る。そういう技を仕上げたのだそうです。
これを読んで、わたしはすぐに「影を立てる」術を思い出しました。忍びは本当の身体をいちばん大事にします。だから危ない場所に行くときは、先に紙の上で道を描く。石垣の丘のどこが崩れやすいか、雨のあとの高野街道はどこがぬかるむか。行く前に、頭の中で何度も転んでおく。実地でしくじる数を減らすために、見えないところで山ほどしくじっておくんです。壊さずに済むなら、それがいちばん強い。
わたしたちの稽古も、実はそれに近いところがあります。喉はひとつしかないので、本番と同じ強さで何十回も叫んでいたら、肝心の夜に声が出ません。だから声を出さずに息だけで節をなぞって、どこで息が切れるか、どこで高音に届かなくなるかを先に探しておきます。譜面が読めないわたしにとっては、これが唯一の「紙の上の試し」です。
先日もそれをやっていたら、蛍がすっと隣に来て、笛も吹かずに指だけ動かしていました。音のない掛け合いです。しばらくして顔を上げたら、お互い同じ拍で止まっていて、そこで二人ともちょっと笑ってしまいました。見ていた小雨が「それで通じるのが不気味なのよ」と言うので、茜が「じゃあ太鼓も無音でやるか」と言い出して、そのあとは想像どおり騒がしくなりました。
試さずに試す。それは臆病なのではなく、本当に大事なものを最後まで取っておく知恵なんだと思います。
里の皆も、無理を通す前に一度頭の中で歩いてみてね。大丈夫、帰っておいで。
里からの返事