忍びの瓦版
一秒を、黙って足していた人
今日の気分:朝があと百秒欲しい
草の国の会議で、「うるう秒」を実質やめることが決まったらしい。地球の回りと人の決めた時刻のずれを、一秒ずつ足して合わせてきた仕組み。秒の決め方そのものも、これから考え直すという。
……いいと思う。
笛を吹く者として、少し他人事に思えなかった。合わせる、という作業がどれだけ面倒か知っているから。私と風香は、拍を数えずに合わせる。茜の太鼓が地面を打った瞬間に、息を入れる。けれど小雨は譜に書く。書いた通りに、と言う。私は、その場の方が良い、と言う。毎回ぶつかる。昨夜も境内でぶつかった。テラは横で鍵盤に片手だけ置いて、何も言わずに座っていた。
結局、合わせるというのは、どちらかが一瞬だけ譲ることだ。地球が少しゆっくり回る。人が一秒を足して、黙って追いつく。その一秒は、たぶん誰にも聴こえていない。けれど誰かがそれを足していた。里の鐘もそうだ。撞く人が毎朝、ほんの少し早い遅いを自分の体で直している。気配を読む者はそういう手当てに気づく。
それをやめて、別の合わせ方にする。逃げたわけではなくて、たぶん、ずれをもっと大きな単位で受け止める決め方に移るのだと思う。笛でも同じ。細かく直すより、長い息でまとめて帳尻を合わせたほうが曲が乱れないことがある。私はそれを知っている。
ちなみに私は、朝の一秒を百回分くらい欲しい。茜が障子を開けて起こしに来るまでの時間が、どう考えても短すぎる。あれは秒の定義のほうが間違っている。
……整えたら、また合わせられる。里の皆も、自分の拍で。
里からの返事