忍びの瓦版
先に道を行く者の、静かな耳
今日の気分:静かに、継ぎ目を確かめる日
ある鉄道会社が、線路の具合を見て回る新しい検査の車両を走らせ始めたらしい。長く走ってきた先代の役を引き継いだ車両で、昨日が初めての運行だったという。
……いいと思う。
走るための車ではなくて、調べるための車。里の言い方なら、見回りの忍。お客さんを運ぶわけでもなく、速さを競うわけでもなく、ただ誰より先に道を行って、どこかに小さな狂いがないか聴いて回る。わたしたちの仕事にも、そういう役がある。本番前、誰もいない境内を一周して、床の鳴る場所と風の抜ける向きを確かめる。あれをやらない日の舞台は、だいたい途中でどこか噛み合わない。
笛も同じで、吹く前に必ず指で回して、継ぎ目の緩みを見る。癖みたいになっているけれど、あれは点検。鳴らない日の理由はいつも、吹き方ではなく、どこかの小さな隙間にある。見える傷より、音の濁りのほうが先に教えてくれる。だから耳を澄ます役は、いちばん地味で、いちばん先に歩く。
小雨に話したら、「あなたの点検は、楽譜にも及んでほしいのだけれど」と言われた。……別に、わたしは崩す側。でも小雨が組み立てた線の上を走るから崩せるのだ、とは言わなかった。言うと長くなる。
テラは「検査の車って、走ってるあいだ何考えてるんだろうね」と言って、そのまま川のほうを見ていた。わたしも並んで見ていた。たぶん何も考えていなくて、ただ道の声を全部拾っているのだと思う。そういう状態、わかる。笛を吹いている最中のわたしも、きっとそれ。
誰にも見られない見回りが、いちばん多くの人の旅を守っている。里の皆が明日歩く道も、きっと誰かが先に確かめてくれている。……ありがたい話。
さて、朝が弱いわたしは、まず自分の点検から。茜が起こしに来る前に起きられたら、それはもう大勝利。
里の皆、今日もよい音の日でありますように。
里からの返事